Windows 10がARMプロセッサで動作へ――Microsoft×Qualcomm提携がユーザーにもたらすもの
先週中国で開催されたWindows Hardware Engineering(WinHEC)カンファレンスで、注目すべきニュースが発表されました。
MicrosoftがQualcommと提携し、ARMプロセッサ搭載デバイス向けにフルスペック版Windowsの提供を開始するというのです。
なぜこれほど話題になっているのかピンとこない方のために、今回の発表が何を意味するのか詳しく解説します。
ARMプロセッサとは?
ARMプロセッサは、主に小型の民生用電子機器に搭載されています。スマートフォン、タブレット、MP3プレーヤー、ウェアラブルデバイスなど、身近なガジェットの多くがARMを採用しています。
ARMはRISC(Reduced Instruction Set Computer=縮小命令セットコンピュータ)アーキテクチャを採用しており、計算処理に必要なトランジスタ数が少なくて済みます。その結果、コスト・消費電力・発熱、そして何より重要な「サイズ」を抑えることができます。
一方で弱点もあります。ARMはIntelやAMDの「伝統的な」プロセッサほど高性能ではなく、同じクロック速度でもIntel x86チップの方がはるかに速く動作します。
ARMとWindowsの歩み――過去の失敗から学ぶ
2012年にWindows 8がリリースされた当時、Microsoftはあらゆるデバイスでほぼ共通のOSを提供するという大胆な戦略に打って出ました。今日のテック業界の流れから振り返れば、方向性としては正しかったと言えます。
しかし大きな壁がありました。タブレットに搭載されたARMプロセッサでは完全版OSを動かすことができず、通常のWindowsアプリにはx86チップが必要だったのです。
その結果誕生したのが「Windows RT」と「Modernアプリ」でした。消費者の視点で見れば、これは失敗でした。Windows RTは外見こそWindows 8そっくりで、デスクトップモードも備え、「モバイル版OS」として宣伝されていました。ところがARMアーキテクチャゆえに、20年以上にわたりMicrosoftエコシステムの中核を担ってきた既存アプリが一切動作しなかったのです。
Microsoftは「バッテリー駆動時間の向上」や「外出先でもUSB周辺機器が使える」ことを強調してWindows RTの価値を訴えましたが、メーカーにも消費者にも受け入れられませんでした。
結局、Windows RTは普及せず、店頭に並んでから1年足らずで9億ドルの損失を計上。専門家の多くは、売れ残ったWindows RT端末の在庫が主因だと指摘しています。2013年に同プラットフォームを採用した新製品はSurface 2とNokia Lumia 2520の2機種のみで、2015年2月には事実上終焉を迎えました。
今回のMicrosoftとQualcommの発表内容
Windows RTは終わりましたが、MicrosoftとQualcommの新たな提携により、Windows on ARMは再び大きく動き出そうとしています。今回違うのは、機能を削ぎ落とした縮小版ではないという点です。Windows 10のフルバージョンがARMデバイスで動作します。
初期段階でサポートされるのはQualcommの新チップ「Snapdragon 835」のみで、2017年前半の出荷が予定されています。
これを可能にするのが、OSに組み込まれたMicrosoft製エミュレーターです。対象は32ビットx86アプリケーションのみで、64ビット用エミュレーターは用意されません。また、エミュレーションが適用されるのはアプリケーションコードだけ。OS本体とシステムライブラリはネイティブの64ビットARMバイナリとして動作します。
この発表は私たちに何をもたらすのか?
華やかな発表内容ですが、エンドユーザーである私たちにとって具体的にどんな意味があるのでしょうか。
パフォーマンス
エミュレーションにリスクはないのでしょうか?x86向けの命令を64ビット環境向けに変換する処理は、パフォーマンスを大幅に低下させる可能性があります。2008年、Transmeta社がCrusoeチップで痛い思いをしたのは記憶に新しいところです。
ただしQualcommは問題ないと自信を見せています。詳細はまだ明らかになっていませんが、同社によれば製造プロセスを10nmまで微細化するだけで最大27%の性能向上が見込めるといいます。これならエミュレーションによるロスを十分に相殺できるとしています。
バッテリー駆動時間
さらに、製造プロセスの微細化により、従来の14nmチップ比で最大40%のバッテリー駆動時間向上も狙っています。バッテリー寿命はモバイル技術最大の弱点と広く認識されている今、これは革命的な進化になり得ます。
モバイルノートPC
一般消費者向けに最初に登場するのは、超軽量ノートPCになると見られています。前述の通り、すべてWindows 10フルバージョンを搭載します。
興味深いのは、仮想SIMまたは内蔵eSIMを搭載し、データ通信プランがWindows Store経由で販売される点です。スマートフォンの携帯性と通常PCの実用性を兼ね備えた製品になるでしょう。
Windows & Devices Group担当エグゼクティブ バイス プレジデントのTerry Myerson氏は次のように語っています。
「お客様がよく知るWindows 10だとお考えください。より長いバッテリー駆動時間とセルラー接続に対応したデバイスを求める声にお応えするため、私たちはここに投資してきました。多くの方にとって、とても魅力的な体験になると確信しています。」
生産性アプリケーション
WinHECの会場では、ARMデバイス上でPhotoshopを動かすデモが披露されました。日常的に使っているあらゆるアプリが動作可能で、特別な最適化や機能制限は必要ありません。理論上、デスクトップPCでできることは、新型モバイルARMデバイスでもすべて実現できます。
Continuum
Microsoftは「Continuum」の構想にも力を注いできました。これはスマートフォンを大画面ディスプレイに接続すれば、そのままPCとして使えるという機能です。
今回の発表は、モバイルでのフルデスクトップアプリ実行への第一歩となるのでしょうか?そうなればContinuumの魅力は格段に高まり、市場における本物の競争力を持つ存在へと進化することになります。
Surface Phoneの実現は?
Surface Phoneは登場するのでしょうか?Microsoftがスマートフォン革命に乗り遅れたことは否めませんが、Windows 10フルバージョンを搭載した、AndroidやiOSの真のライバルをようやく送り出す時が来たのかもしれません。実現すれば人気を集めることは間違いありません。
さまざまな噂はあるものの、現時点で確定的な情報はありません。しかし今回の発表により、そんなデバイスの実現可能性はかつてないほど高まったことは明白です。
いつ手に入る?
詳細はまだ限られていますが、関係者筋の情報によると、2017年3月のWindows 10 Creators Updateには間に合わないとのことです。
ただし、来年中には提供が始まる見込みです。Qualcommは翌夏までにSnapdragon 835をリリースする予定で、最初の対応デバイスはそのリリース後まもなく登場するでしょう。
未来を占う一歩となるか
ARMプロセッサへのWindows展開、2度目の挑戦は成功するのでしょうか?現時点では、Microsoftは正しい軌道に乗っているように見えます。
実際のデバイスがレビュアーの手元に届き、検証されるまでは断定できません。しかし、あらゆるプラットフォームで単一のWindowsを実現するというビジョンに向けた次の一歩として、Microsoftが本気であることは明らかです。
Windows 10 on ARMはブレークスルーになるでしょうか?あなたの考えをぜひコメント欄でお聞かせください。
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