PCの電源は入るのに画面が映らない・POST音も鳴らない――原因はCPU直下のショートしたコンデンサだった

症状の概要
今回修理依頼で持ち込まれたPCは、電源を入れるとCPUファンは回転し、電源LEDも正常に点灯するものの、それ以外の起動の兆候が一切ない状態でした。POST(パワーオンセルフテスト)のビープ音も鳴らず、ディスプレイにも何も表示されません。
疑わしいパーツ
- マザーボード
- メモリ(RAM)
- CPU
- BIOS
作業前の安全対策:HDDを先に取り外す
トラブルシューティングに入る前に、まずハードディスク(HDD)を取り外しました。診断作業中は何度も電源のON/OFFを繰り返すことになり、そのたびにHDDに負担がかかって故障の原因になりかねないためです。これは修理作業における基本的な安全策として覚えておくと良いでしょう。
マザーボードの点検と清掃

まずCMOSバッテリー、CPU、BIOSチップ、そしてすべてのコネクタを取り外し、マザーボードをIPA(イソプロピルアルコール)で清掃しました。その上で、物理的な損傷がないか目視で入念にチェックします。結果、表面上は問題なさそうに見えました。
メモリ(RAM)の清掃と再挿入

次にRAMを取り外し、金メッキの端子(ゴールドフィンガー)を消しゴムで磨いて酸化被膜を落とし、再度スロットに挿し直して電源を入れました。しかし、結果は変わらず……。
通常、RAMに故障がある場合は「ピッ・ピッ・ピッ」という3回のビープ音でメモリ異常を知らせます。ところが経験上、不良RAMでもビープコードが一切鳴らないケースが少なくありません。この段階ではまだ原因を特定できませんでした。
電源ユニット(ATX)の出力電圧チェック
次にATX SMPS(スイッチング電源)コネクタの各電圧をテスターで測定しました。結果は以下の通り、すべて仕様どおりの正常値です。
- +3.3V:OK
- +5V:OK
- +12V:OK
マザーボードの動作に必須となるこの3系統の電圧に問題はないことが確認できました。
VRMセクション(電源回路)の確認
続いてCPUへ供給する電圧を生成するVRM(電圧レギュレータモジュール)部をチェックしました。
- V-core(CPUコア電圧):1.2V → OK
- VTT(終端電圧):1.09V → OK
こちらもすべて正常。ここまでの測定では、電源周りに異常は見つかりません。
CPUは発熱しているか?――重要な手がかり
次に「CPUが熱くなっているかどうか」を確認しました。CPUファンを取り外し、指でCPUに触れてみると……完全に冷たい。発熱がまったくないということは、プロセッサ自体が動作していないことを意味します。
ここで予備のCPUがあれば交換テストで一気に切り分けできるのですが、残念ながら手持ちに同じ世代のCPUがありませんでした。
CPUとマザーボードの互換性の壁
CPUにはマザーボードとの互換性の制限があります。手元には第5世代Core i5があるものの、このマザーボードは第4世代までしか対応していません。そのため、テスト用に第4世代のCPUを調達する必要がありました。
同僚からCPUを借りてテストすることも考えましたが、これはリスクの高い選択です。もしマザーボードのCPU周辺回路にショートが発生していれば、ひとつのミスで借りたCPUまで壊してしまう恐れがあります。
一旦保留し、顧客と方針を相談
いったんこの修理を脇に置き、別の修理作業を進めました。2〜3日後、顧客に現状を報告し、「追加費用をかけてでも直す意思があるか」を確認しました。相談の結果、顧客から「可能なら中古の動作品CPUを買ってほしい」との要望がありましたが、中古品特有のリスク(寿命・信頼性など)についても丁寧に説明しました。最終的に顧客は判断を保留し、「友人に使えるCPUがないか探してみる」とのことでした。
決定的な発見:CPU直下のコンデンサがショートしていた
その日の夕方、ふとCPUをもう一度チェックしてみようと思い立ちました。テスターを取り出し、CPUソケットの真下に実装されている部品を測定します。これらはグループごとに並列接続されたコンデンサです。
1個目を測定すると、表示されたのは2.6Ω。これは明らかにショートに近い値です。さらにランダムに他のコンデンサも測ると、90Ω前後を示すものもあり、値にばらつきがあることが分かりました。そこで、5Ω未満の値を示したコンデンサをすべて取り外すことにしました。



取り外したコンデンサを基板から切り離した単体状態で再測定すると、2.46Ω。完全にショートした不良コンデンサであることが確定しました。
復活!ビープ音とBIOS画面の表示
怪しいコンデンサを除去した後、CPUを基板に戻し、電源スイッチを操作して起動テストを実施。CPUに触れてみると今度は熱くなっているのが分かり、そして聞こえたのは1回のビープ音。これは「POST正常通過」を意味する合図で、マザーボードが機能している証拠です。
モニターを接続すると、画面にはBIOSセットアップ画面が表示されました。疲れ果てていた体力が一気に戻る瞬間でした。

耐久試験(バーンインテスト)で完成
電源ON/OFFを何度か繰り返して動作の安定性を確認したところ、問題なし。翌日にはHDDを再接続し、CPUにバーンインテスト(連続稼働試験)を実施しました。結果、丸一日稼働させても一切の不具合は発生せず、完全に復旧です。
顧客に経緯を報告すると大変喜んでいただき、「廃棄行きになるところを救ってくれた」と、追加の報酬まで支払ってくださいました。

まとめ:本記事のポイント
- 電源LEDが点灯・ファンが回転してもPOST音・表示がない場合、原因はマザーボード/CPU/RAM/BIOSのいずれかを疑う
- トラブルシューティング前にHDDを外しておくと安全
- ATX出力電圧やV-core/VTTが正常でも、CPU直下のデカップリングコンデンサのショートで起動しないケースがある
- CPUが冷たいまま=動作していないサインとして有効な切り分け手法
- 並列接続されたコンデンサ群の抵抗値を個別に測定し、異常に低い(5Ω未満)ものを除去することで復旧できた
本記事は、インド・ムンバイでコンピュータハードウェアエンジニアとして活躍するYogesh Panchal氏による執筆です。
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