Rubyの奇妙なErrno例外の正体を理解する ― OSエラーとRubyをつなぐ仕組み
Rubyの例外階層を覗いたことがあるなら、そこに少し奇妙なものが混ざっていることに気づいたかもしれません。RuntimeErrorやNoMethodErrorといった馴染み深い例外に加えて、Errno::*という不思議な表記を見かけたことはないでしょうか。
Exception
StandardError
...
SystemCallError
Errno::*
...
ディスクが満杯の状態で書き込みを行ったり、不安定なネットワーク越しにAPIコールを試みたりした経験があれば、この種のエラーに遭遇したことがあるはずです。実際、存在しないファイルを開こうとするだけで、今すぐにでも発生させられます。
irb> File.open("badfilename.txt")
Errno::ENOENT: No such file or directory @ rb_sysopen - badfilename.txt
from (irb):9:in `initialize'
from (irb):9:in `open'
from (irb):9
では、Errno例外とは一体何者なのでしょうか?そして、なぜ他の例外とは違う扱いを受けているのでしょうか?
OSに合わせたRubyの適応 ― Errnoは「アダプター」
Errno例外の正体は、いわばアダプターです。オペレーティングシステム(OS)が返すエラーを、Rubyの例外システムへと変換してつなぐ役割を担っています。OSはRubyとはまったく異なる方式でエラーを扱うため、両者をつなぐ何らかの仕組みがどうしても必要になるのです。
Rubyでは、エラーは通常「例外」として報告されます。ところが、OSレベルのエラーは単なる整数値です。そこでRubyは、発生しうるOSエラーの種類ごとに個別の例外クラスを定義し、それらをすべてErrnoというモジュールの下にまとめているのです。
IRBでこのモジュールの中身を覗いてみましょう。その数、実に膨大です。
irb> Errno.constants
=> [:NOERROR, :EPERM, :ENOENT, :ESRCH, :EINTR, :EIO, :ENXIO, :E2BIG,
:ENOEXEC, :EBADF, :ECHILD, :EAGAIN, :ENOMEM, :EACCES, :EFAULT,
:ENOTBLK, :EBUSY, :EEXIST, :EXDEV, :ENODEV, :ENOTDIR, :EISDIR,
:EINVAL, :ENFILE, :EMFILE, :ENOTTY, :ETXTBSY, :EFBIG, :ENOSPC,
:ESPIPE, :EROFS, :EMLINK, :EPIPE, :EDOM, :ERANGE, :EDEADLK,
:ENAMETOOLONG, :ENOLCK, :ENOSYS, :ENOTEMPTY, :ELOOP, ...
# 実際には150個以上の定数が定義されています
]
しかし、なぜこんなに暗号的な名前ばかりなのでしょう?例えばENOENTが「ファイルが見つからない」という意味だと、どうやって推測すればいいのでしょうか?
…実は、この疑問にはとてもシンプルな答えがあります。
libcからの丸ごとの借用
Errnoモジュールを最初に設計した人は、エラー名をC標準ライブラリ(libc)からそのまま持ってきました。つまりENOENTとは、C言語において「ファイルが見つからなかったときにOSが返す整数のエラーコード」を格納するマクロの名前なのです。
したがって、各エラーコードの正確な意味を知りたければ、C標準ライブラリのドキュメントを参照するのが一番の近道です。以下に、Rubyプログラミングで特に関係の深いものを抜粋してまとめました。
| エラーコード | 意味 |
|---|---|
EPERM | 許可されていない操作。適切な権限がないとファイルにアクセスできない。 |
ENOENT | ファイルまたはディレクトリが見つからない。 |
EIO | 入出力エラー。物理的な読み書きの失敗によく使われる。 |
EBADF | 不正なファイルディスクリプタ。例えば読み取り専用で開いたファイルに書き込もうとすると発生する。 |
ECHILD | 子プロセスを操作しようとしたが、子プロセスが存在しない。 |
ENOMEM | メモリ不足。これ以上仮想メモリを割り当てられない。 |
EACCES | アクセス権限なし。ファイルのパーミッションがその操作を許可していない。 |
ENOTBLK | 通常のファイルをHDDなどのブロックデバイスとしてマウントしようとした。 |
EBUSY | リソースが使用中。共有できないシステムリソースがすでに使われている。例えば、マウント中のファイルシステムのルートにあるファイルを削除しようとすると発生する。 |
EEXIST | ファイルが既に存在する。新しいファイルを指定すべき場面で既存のファイルが指定された。 |
ENOTDIR | ディレクトリが必要な場面で、ディレクトリではないファイルが指定された。 |
EISDIR | 対象がディレクトリである。ディレクトリを書き込み用に開いたり、ハードリンクの作成・削除をしたりすることはできない。 |
EINVAL | 引数が不正。ライブラリ関数に誤った引数を渡したことによる様々な問題を示す。 |
EMFILE | 現在のプロセスが開けるファイル数の上限に達し、これ以上開けない。複製されたディスクリプタもこの上限にカウントされる。 |
EFBIG | ファイルが大きすぎる。ファイルサイズがシステムの許容上限を超えようとしている。 |
ENOSPC | デバイスに空き容量がない。ディスクが満杯のためファイルへの書き込みが失敗した。 |
ESPIPE | 不正なシーク操作(パイプへのシークなど)。 |
EROFS | 読み取り専用のファイルシステム上の内容を変更しようとした。 |
EPIPE | パイプ切断。パイプの反対側で読み出しているプロセスが存在しない。 |
ENOTSOCK | ソケットが必要な場面で、ソケットではないファイルが指定された。 |
ENETUNREACH | リモートホストの属するサブネットに到達できないため、ソケット操作が失敗した。 |
ENETRESET | リモートホストのクラッシュにより、ネットワーク接続がリセットされた。 |
ECONNABORTED | ネットワーク接続がローカル側で中断された。 |
ECONNRESET | ローカルホストの制御外の理由(リモートマシンの再起動や回復不能なプロトコル違反など)により、ネットワーク接続が切断された。 |
ENOBUFS | カーネルの入出力バッファがすべて使用中。GNU環境では常にENOMEMと同義であり、ネットワーク操作ではどちらかが返される。 |
EISCONN | 既に接続済みのソケットに対して、さらに接続を試みた。 |
ENOTCONN | ソケットがどこにも接続されていない。接続先を指定せずにデータを送信しようとすると発生する。 |
EDESTADDRREQ | ソケットに宛先アドレスが設定されていない。connectで宛先を指定せずにコネクションレス型ソケットで送信しようとすると発生する。 |
ESHUTDOWN | ソケットはすでにシャットダウンされている。 |
ETIMEDOUT | タイムアウト付きのソケット操作が、制限時間内に応答を受け取れなかった。 |
ECONNREFUSED | リモートホストがネットワーク接続を拒否した(通常は対象サービスが稼働していないため)。 |
EHOSTDOWN | 接続先のリモートホストがダウンしている。 |
EHOSTUNREACH | 接続先のリモートホストに到達できない。 |
ENOTEMPTY | 空のディレクトリが必要な場面で、ディレクトリが空ではなかった。通常、ディレクトリの削除時に発生する。 |
EPROCLIM | forkを試みるとユーザーごとのプロセス数上限(RLIMIT_NPROC)を超えてしまうことを意味する。 |
実践:Errno例外の捕捉方法
Errno例外はSystemCallErrorのサブクラスなので、通常の例外と同じようにrescueできます。特定のエラーだけをピンポイントで捕捉したい場合は、次のように書きます。
begin
File.open("badfilename.txt")
rescue Errno::ENOENT
puts "ファイルが見つかりません"
rescue Errno::EACCES
puts "アクセス権限がありません"
end
なお、Errnoに定義される定数の一覧はプラットフォームによって異なります。これは、各定数がOS固有のerrno値に対応しているためです。Unix系OSとWindowsでは利用できる定数に差がある点にも留意しておきましょう。
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