IPv5はどこへ消えたのか?忘れられたインターネットプロトコルの謎
パソコンに日常的に触れている人でも、「IP」という言葉の正確な意味を説明できる人は意外と多くありません。しかし、この目に見えない技術こそが、私たちが使うインターネットの土台となっています。
初心者向け「IP」の基礎知識
IPとはInternet Protocol(インターネットプロトコル)の略称です。インターネットプロトコルとは、ネットワーク上でやり取りされるすべてのデータパケット(通信のかたまり)に適用されるルール群のこと。世界中のコンピュータ同士が正しく通信するためには、接続されている全マシンが共通の規約に従う必要があります。
この汎用的なインターネットプロトコルには、時代とともにいくつかのバージョンが存在してきました。現在、最も新しいものとして実装されているのがIPv6(Internet Protocol version 6)です。
IPv5の起源
自分のパソコンが接続しているネットワークの設定画面を見たことがある人なら、現代のコンピュータが使用しているのはIPv4かIPv6のどちらかだと気づくでしょう。IPv6は最新の標準プロトコル、IPv4はその前身にあたります。
ここで一つ、違和感を覚えませんか? そうです、IPv5が存在しません。「バージョン番号を飛ばしたのでは?」と思いたくなるほどですが、答えはノー。実はIPv5は確かに存在していたのです。開発・実装・小規模なテストまで行われましたが、世界的な標準として採用されることはなく、IPv6の登場とともに完全に放棄されました。
IPv5は、初めて公開された当時はInternet Stream Protocol(ST)という名前でした。Apple、NeXT、Sun Microsystemsの共同作業によって生み出されたこのプロトコルは、主に動画や音声のストリーミング配信を目的として設計されています。実験の段階では、特定の周波数でデータパケットを効率よく転送しながら、通信チャネルを維持できる点が非常に有効であることが確認されました。
しかし、IPv5はIPv4と多くの基本原理を共有していました。これが結果的に致命傷となります。その開発には大きな革新性がほとんどなく、既存のバージョン4を通信用途向けに特化させ、名称を変えて新バージョンとしたにすぎなかったのです。
IPv5が廃れた理由
IPv5が実験されていた頃、すでにIPv6の開発も並行して進められていました。IPv5がネットワーク上での映像・音声通信に長けていた一方で、開発中だった競合であるIPv6は、事実上無限ともいえるIPアドレスという、ウェブ全体に新たな命を吹き込む可能性を秘めていました。
そもそもIPv5は、そのベースとなったIPv4と同じく32ビットアドレッシングという深刻な制約を抱えていました。
32ビットアドレスの限界
IPv5のアドレス形式はIPv4と同一で、「XXX.XXX.XXX.XXX」という形式のIPアドレスを持っていました。これは4つの数値オクテット(8ビットからなる情報単位)で構成され、各オクテットには0〜255の数値が入ります。
この方式の最大の問題点は、表現できるIPアドレスの総数が約43億個にとどまることでした。インターネットが急成長し、接続されるコンピュータが爆発的に増えるにつれ、この上限は深刻な問題となります。2011年頃には、地球上で利用可能なIPv4アドレスはすべて割り当て済みとなりました。
IPv4を時代遅れにしたこの要因は、そのままIPv5の死因にもなり得ました。同じ限界を抱えたIPv5を新標準として世に送り出す意味は、まったくなくなっていたのです。
こうして世界はIPv6を新しい標準プロトコルとして受け入れました。ただし、IPv5が完全に無駄だったわけではありません。Voice over IP(VoIP)など、今日では世界中で当たり前に使われている技術の発展に、IPv5は重要な役割を果たしました。インターネットを通じた音声通話の基盤を築いた功績は大きいといえます。
救世主・IPv6の登場
IPv6の開発自体は1990年代から始まっていましたが、本格的な大規模展開が始まったのは2006年になってからです。
従来の32ビットプロトコルと比較して、IPv6は128ビットのプロトコルです。提供されるIPアドレスの総数は3.4×10³⁸個。43億という前世代の数字とは桁違いの規模で、人類が当面IPアドレスを使い切ることはまず考えられません。
IPv6アドレスの形式と省略ルール
IPv6のアドレスは8組の16進数ブロックで構成され、各ブロックは4文字(16ビット)で、合計128ビットになります。使用される文字は0〜9の数字とA〜Fのアルファベットです。典型的なIPv6アドレスは次のような見た目をしています。
2001:0db8:0000:0000:1234:0ace:6006:001e
かなり長いですよね。しかし心配は無用です。IPv6には便利な省略ルールが用意されています。
- 各ブロック先頭のゼロ(先行ゼロ)は省略できます。
- すべてがゼロで構成されたブロックは、記号::に置き換えられます(ただし、::は1つのアドレス内で1回しか使用できません)。
上記のアドレスにこのルールを適用すると、次のようにスッキリ短縮されます。
2001:db8::1234:ace:6006:1e
このようにIPv6は、アドレス数の制限から使い勝手に至るまで、歴代のプロトコルが抱えていたあらゆる欠点を克服しています。だからこそIPv6は今後も長く使われ続けることになるでしょう。インターネットの歴史の中で小さな足跡を残したIPv5に対し、IPv6は確固たる存在として、これからのウェブを支えていくのです。
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