Wi-Fiが世界中であなたを追跡する仕組み――接続しなくても漏れる個人情報
私たちの多くは、どこにいても近くにWi-Fi接続があるのが当たり前だと感じています。だからこそ、モバイルデータ通信量を節約したいなら、スマートフォンのWi-Fiをつけっぱなしにしておくのは自然なことでしょう。
しかし、多くのテクノロジーと同じように、意図した以上の情報を漏らしてしまうことがあります。Wi-Fiも例外ではありません。最も懸念すべきは、Wi-Fiネットワークに接続していなくても情報が漏れ始めるという点です。
Wi-Fi接続の基本的な仕組み
Wi-Fiは電波を使って2つのデバイス間のネットワーク接続を確立します。通常、これはアクセスポイント(AP)やルーターとあなたのデバイスとの間で行われ、ルーターは2.4GHzまたは5GHzの周波数で電波を発信しています。
デバイスのWi-Fiをオンにすると、「アクティブスキャン」モードで接続先のアクセスポイントを探し始めます。このとき、自分のMACアドレスを周囲のアクセスポイントに公開することになります。MACアドレスとは、そのデバイス固有の物理アドレスのことです。
ホットスポットに接続すると、インターネットへ接続するためのIPアドレスが割り当てられます。つまり、識別方法は2つあるのです。アクセスポイントとの間で使われるMACアドレスと、インターネットとの間で使われるIPアドレスです。
ゴミ箱が暴いた追跡の実態
2013年、Renew Londonという企業が、インターネット接続されたゴミ箱で大きな話題を呼びました。同社は2012年のロンドンオリンピック期間中、通行人に広告を表示し、表示時間の5%を公共サービス告知に充てるゴミ箱の試験運用を行っていました。
広告を見る機会が増えることに喜ぶ人は多くありませんでしたが、当初はさほど問題視されていませんでした。ところが2013年、シティ・オブ・ロンドンでの試験拡大にあたり、通りかかる人全員のMACアドレスを追跡する機能が追加されていたことが明らかになったのです。

同社はゴミ箱にWi-Fiアクセスポイントを内蔵しており、Wi-FiをオンにしているすべてのデバイスのMACアドレスを捕捉していました。Quartzの報道によると、Renewは試験運用中に100万台以上のユニークなデバイスを特定し、2013年7月6日だけで106,629人を特定、1日におよそ946,016回の位置記録を行ったと述べています。
RenewのCEOは、このシステムの活用例としてこんなシナリオを挙げています。バーに5つのトラッカーを設置します。入り口に1つ、屋上に1つ、レジ付近に1つ、そして各トイレに1つずつ。そうすると、トイレの利用状況から来店者の性別を推測し、滞在時間や、食事目的か飲酒目的かまで把握できます。さらに、その人が街中を移動する際にターゲット広告を配信することも可能になるのです。
この行為が明らかになるとプライバシー擁護団体から大きな抗議が殺到し、シティ・オブ・ロンドンは試験を中止し、ゴミ箱を撤去しました。
それだけでは終わらない
Renew Londonは「Presence Orb」というプロジェクトの一環でした。その目標は「実店舗型小売業にも、Webビジネスと同等のデータインサイトを提供すること」です。
言い換えれば、現実世界にCookieをもたらすということです。プロモーションビデオで紹介されているのは「ジャック」という人物の例です。ジャックは新車の購入を検討していて、2つの販売店で試乗しました。うち1店がPresence Orbを導入していた場合、システムは彼のMACアドレスを記録し、新車購入の意向があることを把握します。その後、彼のMACアドレスが別の場所で検知されれば、そこでもその車の広告を表示できるわけです。
しかも、これらはすべてWi-Fiネットワークに接続しなくても起こり得ます。万が一Presence Orbのネットワークに接続してしまえば、あなたの閲覧履歴すべてがMACアドレスと紐付けられ、オンライン・オフライン両方で追跡されることになります。
広告、広告、さらなる広告
しかし、Presence Orbは氷山の一角にすぎません。実際には「Smart Places」と呼ばれるより大規模な取り組みの一部であり、この「現実世界のCookie」を世界的に展開するプロジェクトです。公式サイトでは、この技術を活用する理由として以下を挙げています。
- 時間帯ごとに、顧客がレジの列にどれくらい並んで待つのかを把握する
- 店内のどの商品・どの場所が人気なのかを可視化する
- どのマーケティング展示が最も効果的かを分析する
実は、隠れた専用ページからMACアドレスの追跡をオプトアウトできます。あなたのMACアドレスは引き続きデータベースに残りますが、オプトアウト目的のみに使用され、オンラインの「Do Not Track(トラッキング拒否)」リクエストに似た仕組みです。
興味深いことに、この取り組みの背後には「The Future of Privacy Forum(プライバシーの未来フォーラム)」という団体が関わっています。名前からするとプライバシー保護に尽力していそうですが、参加企業のリストには以下が名を連ねています。
- Foursquare、Facebook、Netflix、Apple、Microsoft
- Cisco、Lockheed Martin
- Citigroup、Bank of America、American Express
- Ford、Starbucks、Nike、Macy's、Amazon、Toyota、Wal-Mart
- Ernst & Young、AOL、LinkedIn
- Comcast、AT&T、T-Mobile、Verizon
- MasterCard、Visa
この顔ぶれを見ると、「現実世界へのCookie導入に一役買った」Future of Privacy Forumが本当に利用者の利益を守っているのか、不安になってしまうかもしれません。
そして、スパイ行為の問題
広告はまだ物議を醸す程度の話ですが、政府や法執行機関は「Stingray(スティングレイ)」と呼ばれる装置であなたを追跡できます。Stingrayは携帯電話の通信を傍受できる「偽基地局」で、SIMカードの国際加入者識別番号(IMSI)を使って通信を個人と紐付けます。従来、これは携帯電話網接続でのみ可能で、Wi-Fiでは実現できないとされていました。
ところがBlackHat Europe 2016で、オックスフォード大学の研究者2人が、公衆Wi-FiアクセスポイントをStingray化する手法を実演しました。ほとんどのスマートフォンは、特定のWi-Fiネットワークへの自動接続が有効になっています。対象は自宅のWi-Fiのような通常のネットワークでも、外出先の公衆ホットスポットでも構いません。

この認証プロセスはIMSIを使って自動的に行われるため、あなたの操作は一切不要です。悪意のある第三者は、既存のWi-Fiネットワークになりすました「不正アクセスポイント(ローグAP)」を設置するだけでよいのです。スマートフォンが自動接続を試みた瞬間、IMSIがそのアクセスポイントへ送られてしまいます。
重要なのは、IMSIが紐付いているのはデバイスではなく携帯電話番号とSIMカードだという点です。つまり、SIMを別の端末に移し替えても、携帯電話網やWi-Fiネットワークに接続するたびに、あなたの移動経路を特定・監視できてしまうのです。
忘れずにWi-Fiをオフにしよう
ここまで読むと、かなり侵入的で不気味に感じるでしょう(実際そうです)。しかし、こうした追跡をすべて阻止するシンプルな解決策が1つあります。それはWi-Fiをオフにすることです。紹介した追跡手法はすべて、「Wi-Fiをつけっぱなしにしていること」を前提に成り立っています。
Smart PlacesにMACアドレスを追跡されたくなければ、必ずオプトアウト手続きを行いましょう。Wi-Fi版Stingrayを防ぐには、デバイスのWi-Fi設定で自動接続(Auto-Connect)を無効にします。ただし、これはそのネットワークの電波圏内にいる間しか効果がない点に注意が必要です。
筆者のように、家を出るときに接続を切るのを忘れてしまうタイプの人は、自動化を検討しましょう。AndroidならTaskerなどのアプリを使えば、指定した場所以外ではWi-Fiを自動的にオフにできます。ワンタップで切り替えられるウィジェットを追加するのも便利です。筆者自身は、玄関前に設置したNFCタグでWi-Fiを切り替えています。
ターゲット広告のために追跡されるのは気になりますか?ターゲット広告についてどうお考えですか?Wi-Fiを使ったその他の追跡手法をご存知でしたら、ぜひコメント欄でお聞かせください!
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