Theranos(セラノス)とは?7億ドル超を騙し取ったスタートアップ詐欺の全貌
血液検査が好きな人はいません。多くの人にとって不快であり、人によっては恐怖の対象ですらあります。2003年、ある若いアメリカ人女性が、血液検査の採取・分析方法を根本から変えてみせると宣言しました。
しかし15年後、その会社は閉鎖に追い込まれ、数億ドル規模の詐欺だったことが明らかになります。Theranos(セラノス)とは一体何だったのか、創業者エリザベス・ホームズとはどんな人物で、彼女はどのようにして数億ドルもの資金を騙し取ったのでしょうか。
エリザベス・ホームズ、Theranosへの道
エリザベス・ホームズは1984年、ワシントンD.C.に生まれました。父親は米エネルギー会社として悪名高いエンロンの副社長を務めており、彼女は比較的裕福な環境で育ちました。エンロンは、巨額の取引損失を隠蔽し、帳簿外会計で規制当局を欺いていたことが発覚し、2001年12月に破綻しています。
ホームズはテキサス州の私立学校に通い、在学中に最初の会社を立ち上げました。その事業は、中国の大学で使われるコンピュータ向けのC++コンパイラを販売するというもので、高校生としては驚異的な実績です。幼少期から優秀さを発揮していた彼女にとって、決して偶然の成果ではなかったでしょう。在学中にはスタンフォード大学の中国語サマープログラムにも参加しており、両親は家庭教師をつけて学校外でも語学力を磨かせていました。
その後、ホームズは正式にスタンフォード大学へ進学し、化学工学を専攻します。しかし2年在籍したところで中退し、医療テクノロジー企業の創業へと向かいました。ここで「Theranos」のアイデアが生まれたのです。
Theranosとは何だったのか?
「Theranos」という社名が表れる前、ホームズはカリフォルニア州で「Real-Time Cures」という会社を設立しました。自身が針への恐怖症を抱えていたこともあり、「採血には別の方法があるはずだ」という考えが事業の出発点でした。会社を設立した当時、彼女はわずか19歳でした。
一見もっともらしい構想ですが、すべての人が賛同したわけではありません。例えば、スタンフォード大学のある教授に自社の目標を説明した際、「そんな偉業は達成できるはずがない」と告げられたといいます。では、ホームズが実現しようとしていたこととは何だったのでしょうか。
要するに、ホームズは標準的な検査に必要な採血量を劇的に減らそうとしていたのです。従来必要とされる小瓶サイズの血液ではなく、患者の血液わずか1滴だけでさまざまな検査を行うことを目標としていました。そのために使われるのが「Edison(エジソン)」と呼ばれるマシンです。ホームズは、このマシン1台でがんや性感染症など多数の疾患に関する検査を、この微量な血液で実行できると主張しました。
疑念を抱いたのはあの教授だけではありません。多くの医療専門家もこの構想を一蹴しました。それでもホームズは前進を続け、2003年に社名を「Theranos」へ変更。目標実現のための資金調達に動き出し、投資家との交渉を開始します。
2004年までに、ホームズは投資家から690万ドルを調達。わずか3年後にはさらに4320万ドルを追加調達しています。この勢いは止まらず、2010年には会社の評価額は10億ドルに達しました。
さらに3年後、ホームズはTheranosを公式に世間へ披露します。公の場に登場する機会が増えるにつれ、人々は彼女が黒のタートルネックしか着ていないことに気づきました。これはAppleのスティーブ・ジョブズを彷彿とさせるスタイルで、実際ジョブズはホームズの憧れの人であり、納得の服装選びでした。
また、エリザベスの声が異様に低いことも話題になりました。「公衆や投資家からの信頼を得るために、より『男性的』な声を作り出しているのではないか」と疑う人も多かったのです。しかしホームズはこれを認めることはなく、あくまで地声だと主張し続けました。
Theranosの存在が広く知られるようになると、Edisonマシンがどのように機能するのかという疑問が浮上し始めます。しかしホームズは技術的な詳細をほとんど明かしませんでした。当時Theranosの企業価値は約90億ドルに達し、7億ドル以上の資金を調達済みでしたから、透明性が求められるのは当然のことでした。残念ながら、ここからエリザベス・ホームズの状況は急速に悪化していきます。
Theranosの転落
Theranosの矛盾は、すぐに露呈しました。2014年、看板商品であるEdisonマシンが一度も医学審査に提出されたことがないことが判明したのです。それでもTheranosは成長を続け、まもなく評価額は100億ドルに達しました。ホームズは株式の50%を保有していたため、驚くべき短期間で億万長者となったのです。
Theranosは、米保険会社Capital BlueCrossとの契約にも成功しました。同社はTheranosを検体検査の優先提供業者に選定しています。Capital BlueCrossの規模を考えれば、Theranosにとって大きな勝利でした。しかし、この幸運は長くは続きません。
2015年、ウォール・ストリート・ジャーナルの記者ジョン・キャリールーが、Theranosを痛烈に批判する記事を発表します。記事公開前に、キャリールーは同社について長期にわたる調査を行っていました。きっかけとなったのは、Edisonに関する主張に疑問を抱いたある医療専門家からの内部告発でした。
記事の中でキャリールーは、Edisonマシンが不正確な結果を出していると指摘しました。これは、Theranosとホームズの実態を暴く一連の報道の第一弾にすぎませんでした。一方ホームズはこれらの主張を否定し、こうした告発に対する衝撃を公に表明します。
しかし、法的問題は次々とホームズを襲いました。2015年10月、FDA(米食品医薬品局)は、Theranosの正当性に関する調査の一環として作成された2つのForm 483報告書(一部黒塗り)を公開。その1年後、ホームズは2年間、あらゆる形の血液検査サービスを所有・運営することを禁止されました。そして次に待っていたのが刑事責任でした。
2018年、ホームズは電信詐欺9件と共謀罪2件で起訴されます。2021年8月末に始まった裁判の結果、2022年1月、陪審員は彼女を4件の罪で有罪と判断。2022年11月には11年以上の禁錮刑が言い渡されました。かつて「女性版スティーブ・ジョブズ」と称賛された彼女の名声が、取り返しのつかないほど失われたことは間違いありません。
Theranosは最初のテック詐欺ではなく、最後でもない
現代のテクノロジーには複雑な仕組みが数多く関わっているため、今後さらに多くの技術系詐欺が現れることは疑いようがありません。せめて、数十億ドル規模のスキームに膨れ上がる前に暴露されることを願うばかりです。
画像クレジット:TechCrunch / Wikimedia Commons
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