米国のサイバーセキュリティ大統領令(EO 14028)とは?目的・主な施策・政府の役割を徹底解説
2021年5月12日、米国大統領は「国家のサイバーセキュリティの改善(Improving the Nation's Cybersecurity)」と題する大統領令(EO 14028)に署名しました。本記事では、この大統領令の目的や主要な施策に加え、大統領令そのものの仕組み、連邦政府におけるサイバーセキュリティの体制について、わかりやすく解説します。
大統領令(EO)とは何か?
大統領令(Executive Order:EO)とは、米国大統領が行政部門の運営を管理するために発する公式な指示文書です。連邦政府の各省庁や職員に対して具体的な行動を直接指示したり、行政部門が従うべき政策方針を定めたりする役割を持ちます。
大統領令は、憲法または議会から付与された権限に基づいて発せられ、その内容は憲法の枠組みに従う必要があります。法律とは異なり議会の承認を必要とせず、議会が簡単に覆すこともできません。ただし、大統領の権限を超える内容と判断された場合は、連邦議会や連邦裁判所によって無効とされる可能性があります。
発効された大統領令には通し番号が付与され、番号または主題によって参照されます。一度発効すると、撤回・修正・違法との認定、あるいは期限が到来するまで有効であり続けます。
歴史に残る大統領令の例
大統領令は、歴史上の重要な局面でたびたび発せられてきました。代表的な例は以下のとおりです。
- 大統領令9066号(1942年2月19日):第二次世界大戦中、フランクリン・ルーズベルト大統領が署名し、日系アメリカ人の強制収容を可能にしました。
- 大統領令9981号(1948年):ハリー・S・トルーマン大統領が署名し、米軍内部の人種隔離を廃止しました。
「国家のサイバーセキュリティの改善」大統領令の目的
ホワイトハウスが公表したファクトシートによれば、この大統領令は以下の実現を目指しています。
- 政府と民間セクターの間での脅威情報およびインシデント情報の共有を妨げる障壁を除去する
- 連邦政府のサイバーセキュリティ基準を最新化し、強化する
- 連邦ネットワークへのサイバー攻撃をより正確に検知できるようにする
大統領令は、各行政機関が達成すべき目標に向けて、明確なスケジュールと具体的な要件を定めている点が特徴です。
具体的な主な施策
- ソフトウェアサプライチェーンの安全性向上:連邦政府が調達・利用するソフトウェアの開発過程全体のセキュリティを強化します。
- サイバーセーフティ審査会の設立:重大なサイバーインシデントを調査・分析し、得られた教訓を広く共有する仕組みを構築します。
- インシデント対応の強化:セキュリティインシデントの調査、検知、復旧のプロセスを改善します。
- エンドポイント検知・対応(EDR)プログラムの導入:CISA(サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁)とOMB(行政管理予算局)が中心となり、各機関ネットワーク上の脆弱性や脅威の可視性を高め、必要に応じて迅速に対処できるようにします。
連邦政府におけるサイバーセキュリティの担い手
CISA(サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁)
CISAは国土安全保障省(DHS)傘下の機関で、全国規模のプログラムを通じて米国の重要インフラの保護と強化を担当する、国内サイバーセキュリティ対策の中核的存在です。
NSA(国家安全保障局)
約3万〜4万人の職員を擁するNSAも、サイバーセキュリティ活動の調整において重要な役割を果たしており、常に新たなサイバーセキュリティ人材を求めています。同局は、主に電子的に伝送される大量の情報を監視・分析しています。
NCSD(国家サイバーセキュリティ局)
DHS内のサイバーセキュリティ・コミュニケーション室に属するNCSDは、連邦機関に対してサイバーセキュリティサービスを提供しています。
なぜ政府にとってサイバーセキュリティが重要なのか
安全な技術インフラは、国民に不可欠なサービスを安定的に提供するための基盤となります。さらに、強固なサイバーセキュリティ戦略は、市民の個人情報、政府自身のデータ、そしてAIモデルの活用が進む現代においては、その運用を支えるアルゴリズムまでも保護するために不可欠です。
政府には、国民がサイバー空間へ安全にアクセスできる環境を守る責任があります。サイバー犯罪への正しい認識、実際に発生している犯罪の類型の把握、そして将来の脅威に共同で対処するためのロードマップ策定などにも取り組んでいます。
各国のサイバーセキュリティへの取り組み
オーストラリア政府は2016年、接続性がますます高まる環境で国の繁栄を守るためのサイバーセキュリティ戦略を発表しました。この戦略では、国家レベルのサイバーセキュリティ・パートナーシップの構築や、より強靭なサイバー防御の実現といった5つのテーマに沿って、2020年までに2億3000万豪ドルが投資されています。
また、Analytics Insightsの調査によれば、サイバーセキュリティ分野を世界的に牽引しているのは、デジタルセキュリティ組織の約58%が拠点を置く米国をはじめ、ロシア連邦、イスラエルなどの国々です。
まとめ
「国家のサイバーセキュリティの改善」大統領令は、脅威情報共有の促進、連邦政府のセキュリティ基準の近代化、ソフトウェアサプライチェーンの保護、インシデント対応の強化など、多岐にわたる改革を掲げています。これらの施策を通じて、サイバーインシデントに伴うセキュリティリスクを低減し、重要インフラと連邦政府ネットワークの継続性を確保することが、この大統領令の根本的な狙いといえるでしょう。
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