iPhoneはマルウェアに感染する?iOSセキュリティの仕組みと脱獄のリスクを徹底解説
Appleは2000年代前半にMicrosoft製OSを悩ませた数々のマルウェアに対し、自社製品は影響を受けないというイメージを長年打ち出してきました。しかし、iPhoneの普及が拡大するにつれ、攻撃者にとって魅力的な標的となりつつあります。
報道によると、数千台規模のiPhoneに感染し、App Storeのアカウント情報を盗み出すマルウェアが確認されました。ただし、大多数のiOSユーザーは依然として安全です。ここでは、マルウェアの基礎知識と、Appleが採用するモバイルセキュリティへのアプローチについて詳しく解説します。
マルウェアとは何か?
「マルウェア(Malware)」は「malicious(悪意のある)」と「software(ソフトウェア)」を組み合わせた造語で、デバイスへの不正アクセス、データ収集、正常な動作の妨害などを行うソフトウェア全般を指します。多くの場合、深刻な被害をもたらします。
マルウェアの挙動や感染による被害の深刻度は多岐にわたります。CryptolockerやTorrentLockerなどのランサムウェア型はファイルを暗号化し、復元と引き換えに身代金を要求します。一方、キーボード入力をすべて記録して攻撃者へ送信するキーロガー型もあり、攻撃者はそのログからユーザー名、パスワード、クレジットカード情報などを探し出します。
こうした悪意あるソフトウェアは、従来デスクトップOSと密接に結び付けられてきました。しかしiOSは、その大部分において最悪の事態を免れてきました。その理由は、Appleによる非常に巧妙な設計上の選択にあります。
なぜiOSは安全なのか?
AppleはiOSを設計する段階からセキュリティを最優先し、システム全体を本質的に安全なものとする多数のアーキテクチャ上の決定を下しました。その結果、iOSにおけるマルウェアは「例外」であって「常態」ではない状況を実現しています。
ウォールドガーデン(閉じた生態系)
Appleは自社プラットフォームに対して強力なコントロールを行使しており、それはユーザーがアプリをダウンロードできる場所にまで及びます。サードパーティ製アプリを公式に入手できるのは、Appleの正規のApp Storeのみです。
この仕組みにより、ユーザーがインターネットの危険な領域を閲覧中にうっかりマルウェアをダウンロードしてしまうリスクが大幅に減少しました。さらにAppleは、提出されたソースコードの静的解析をはじめとする厳格な審査プロセスを設け、マルウェアがApp Storeに紛れ込むこと自体を防いでいます。
とはいえ、この仕組みも完璧ではありません。2013年には、ジョージア工科大学の研究チームが悪意あるプログラム「Jekyll」をApp Storeの審査に通過させることに成功しました。Jekyllはユーザーの許可なくツイートの投稿、メール送信、電話発信まで可能でした。同アプリはその後まもなくApp Storeから削除されています。
サンドボックス化
iPhoneにインストールされたすべてのアプリは、互いに、そして基盤となるOSからも隔離されています。そのため、インストール済みのアプリが重要なシステムファイルを削除したり、認可されたAPI呼び出し以外の方法で他のアプリに不正な操作を行ったりすることは、物理的に不可能です。
この技術は「サンドボックス」と呼ばれ、iOSのセキュリティプロセスにおいて極めて重要な役割を果たしています。すべてのiOSアプリが相互に隔離されることで、悪意ある活動の経路は大幅に制限されます。
権限管理
iOSの中核には、UNIXの変種であるBSDがあります。姉妹OSであるLinuxと同様、BSDは設計段階から安全性を考慮して作られています。その一因となっているのが「UNIXセキュリティモデル」で、これは厳密に管理された権限設定に集約されます。
UNIXでは、誰がどのファイルを読み取り、書き込み、削除、実行できるかが「ファイル権限」として細かく定められています。一部のファイルは「root」と呼ばれる、いわば「神のような権限」を持つユーザーが所有しており、これらの権限を変更したりファイルへアクセスしたりするには、rootユーザーとして操作する必要があります。
root権限を使えば任意のコードを実行できるため、システムにとって危険になり得ます。Appleは意図的にユーザーへroot権限を与えていません。大多数のiOSユーザーにとって、それが必要になる場面はないからです。
こうしたセキュリティアーキテクチャの結果、iOSデバイスに影響を及ぼすマルウェアは極めて稀です。ただし、例外がひとつだけ存在します。それが「脱獄(ジェイルブレイク)」されたデバイスです。
脱獄とは何か?なぜ危険なのか?
「脱獄(Jailbreak)」とは、AppleがOSに課している制限を解除する行為を指します。
脱獄により、ユーザーはこれまでアクセスできなかったOSの領域に触れられるようになり、Cydiaなどのサードパーティソースからアプリをダウンロードしたり、Appleに禁止されたアプリを使用したり、OS本体のカスタマイズを行ったりできます。
しかし、iOSデバイスの脱獄には重大なセキュリティリスクが伴います。特に重要なのは、Appleの厳格なセキュリティ検査を経ていないアプリが危険であり、既にインストール済みの安全なアプリのセキュリティまでも脅かしかねない点です。また、iOSのデフォルトrootパスワードは広く知られているため、変更しないまま第三者ソースからソフトウェアをインストールするのは大きな懸念材料となります。Appleの方針も明確で、脱獄した端末は標準のiOSに戻さない限りアップデートを適用できません。
現在、脱獄済みデバイスを狙う「AppBuyer」と呼ばれるマルウェアが現実的な脅威として存在しており、感染すれば多大な損害を被る可能性があります。
実際に確認されたiPhoneマルウェア
著名なネットワークセキュリティ企業であるPalo Alto Networksは、数千台のiOSデバイスに感染したウイルスを実際に確認しました。App Storeの認証情報を盗み、アプリを不正購入することから「AppBuyer」と名付けられました。
感染経路は完全には解明されていませんが、分かっているのは脱獄済みデバイスにしか感染できないという点です。インストールされると、AppBuyerは犠牲者が正規のApp Storeに接続するのを待ち、通信中のユーザー名とパスワードを横取りします。盗んだ情報はコマンド&コントロールサーバーへ送信されます。
その直後、マルウェアは.GZIPファイルの解凍ユーティリティを装った追加の悪意あるソフトウェアをダウンロードします。これは盗んだ認証情報を使って、正規のApp Storeから複数のアプリを不正に購入します。
残念ながら、AppBuyerを除去する確実な方法はありません。Palo Alto Networksの公式な見解は、そもそもiOSデバイスを脱獄しないことです。万が一感染した場合は、Apple IDの認証情報をリセットし、標準のiOSを再インストールすることが推奨されます。
AppBuyerの技術的な詳細については、Palo Alto Networksの公式ブログ記事で詳しく解説されています。
不透明ながらも現実に存在する脅威
結論から言えば、iPhoneもマルウェアに感染する可能性はあります。しかし現実的には、それは脱獄した場合に限られます。安全なiPhoneを望むなら、脱獄しないこと。さらに強固なセキュリティを求めるなら、「ハードニング(セキュリティ強化)」について調べてみてください。
あなたはスマホを脱獄していますか? セキュリティ上の問題に遭遇したことはありますか?ぜひコメント欄でお聞かせください。
写真提供:Denys Prykhodov / Shutterstock.com、Kilmainham Gaol (Sean Munson)、360b / Shutterstock.com
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